パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2023年2月2日

第23回全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会

パラ・パワーリフティング界の初の試み! お寺で大会開催!

「宗教、人種、障がい、3つの壁を超える異空間での大会」をコンセプトに、「第23回全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会」が1月29日、東京都中央区の築地本願寺第二伝道会館で開催された。築地本願寺でスポーツの競技会を開くのは初めての試み。3年ぶりに有観客で実施し、選手入場を盛り上げるエスコートキッズや有料チケット制も初めて導入した。台湾とラオスの海外招待選手を含めて35人が参加し、男子2階級、女子2階級で日本新記録が誕生した。

会場は400年以上の歴史を持つ築地本願寺。本尊の横に競技スペースが設けられた

本尊の横に設けられた競技スペース

今大会は、講演会で築地本願寺と縁があった男子49㎏級の三浦浩(ビッグサイト)が日本パラ・パワーリフティング連盟と築地本願寺に提案。築地本願寺もコロナ禍で東京2020オリンピック・パラリンピック(以下、東京2020大会)の応援企画の中止を経験しており、「話をもらったときに何か協力できないかと思い、依頼を受けました」と東森尚人副宗務長。また、車いすユーザーも参拝できるよう敷地内にはスロープやエレベーターが設置されるなど、バリアフリーであることも決め手になり、実現した。

会場は本堂に隣接する第二伝道会館。有料席を含め、180席の客席は満員になった。ベンチプレス台は阿弥陀如来の本尊の横に設置され、築地本願寺の僧侶の読経のあと、競技がスタート。3度の試技をすべて成功させた三浦は、「仏さまに見守られているようだった」と、振り返った。

東京2020大会代表の光瀬が日本記録を更新!

好記録をマークし、雄叫びを上げる男子59㎏級の光瀬

東京2020大会の男子59㎏級10位の光瀬智洋(エグゼクティブプロテクション)は、第2試技で自身が持つ日本記録を1キロ更新する154キロに成功。第3試技で156キロに挑戦したが、惜しくも成功判定はならなかった。「最後は手ごたえがあったから悔しい。でもこの数カ月間停滞していたのを超えられたので、そこは良かった」と話し、前を向いた。また、昨年の全日本で日本記録ホルダーとなった同97㎏級の佐藤芳隆(関彰商事)は、「今日のために準備してきた」と気合十分。第2試技で168キロを力強く挙げて、見事に2年連続で日本記録を塗り替えた。

男子88㎏級の田中翔悟(三菱重工高砂製作所)は、170キロに成功して2連覇を達成。アームレスリングで関西チャンピオンに輝いた経験がある田中は、ベンチプレスの競技歴が長く、リオパラリンピックを観てパラ・パワーリフティングに転向。当初は65㎏級だったが、身体を鍛えて、現在は82㎏まで体重を増やした。昨年は全日本に続いてチャレンジカップ京都を制し、アジア・オセアニア選手権(韓国)では175キロをマークするなど、右肩上がりの成長曲線を描いている田中。今後の飛躍が楽しみだ。

また、男子80㎏級の大堂秀樹(SMBC日興証券)は、昨年はケガや体調不良が重なり、その復帰途中ながらすべての試技を完璧に決め、166キロで優勝した。北京・ロンドン・リオの3度のパラリンピックに出場したベテランも、寺を舞台に競技をしたのは初めての経験だといい、「まさかこういう場所でスポーツの大会ができるとは。またやれたら嬉しい」と語った。

女子は視覚障がいも抱える田中が好パフォーマンス

女子73㎏級は視覚にも障がいがある田中が日本新記録で制した

女子73㎏級は、初出場の田中秩加香が第1試技で日本記録を2キロ上回る75キロに、また第2試技で80キロに成功。日本新記録と新女王の誕生に会場が沸いた。田中は先天性の下肢障害で、2009年まで陸上競技に取り組んでいた。コロナ禍で運動を始めた際に出会ったトレーナーにパラ・パワーリフティングを紹介され、トレーニングを始めたのが昨年3月。翌月にはチャレンジカップ京都に同67㎏級で出場して60キロを成功させ、アジア・オセアニア選手権(韓国)にも出場を果たした。

競技歴1年未満ながら着実に結果を残す田中。実は右目は全盲、左目は弱視という視覚障害も抱える。バーのグリップ幅は指や手のひらで確認するなどの工夫をしているそうだ。重いバーベルを持ち上げる競技だけに見えない恐怖心もあるだろうが、田中は「面白い競技だと思ってもらえる試技をしたい」と話し、笑顔を見せていた。

同67㎏級は、龍川崇子(EY Japan)が第2試技で75キロを挙げ、自身が持つ日本記録を1キロ更新した。ネクストジェネレーション(旧ジュニアの部)の日本記録保持者である森﨑可林(立命館大)は今年からエリート(旧一般の部)に参戦。今大会の記録は65キロに留まり、龍川に次いで2位となった。森﨑は「(エリートに上がり)初めての“追う立場”はしんどいとわかった。もう甘えは許されないので、頭を使って賢く練習を重ねていきたい」と、言葉に力を込めた。

同79㎏級は、東京2020大会日本代表の坂元智香(久米設計)のみエントリー。坂元は昨年のチャレンジカップ京都で左肩を負傷し、今大会が9カ月ぶりの実戦。無理をせずに丁寧な試技を心掛け、60キロ、64キロ、68キロを挙げきった。試技後に涙を見せた坂元は、「観客席から名前を呼んでもらったり、掛け声をかけてもらったりして、力になった。ここまで回復できて良かった」と、復帰戦を振り返った。

(MA SPORTS)