パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2020年9月9日

WPA公認第31回日本パラ陸上競技選手権大会

コロナ禍での公式戦、好記録続出!

「WPA公認第31回日本パラ陸上競技選手権大会」が9月5日から2日間の日程で、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われた。新型コロナウイルスの感染拡大後、主要なパラスポーツで初めてとなる全国規模の競技会開催となり、感染対策を講じたうえで、無観客で行われた。

力強い走りで男子1500m(T11)を制した和田伸也

東京パラ開催を信じ、調子を維持した選手たち

来年の東京パラリンピック日本代表に内定している選手も多数出場し、好記録をマークした。視覚障がい(T11)の和田伸也(長瀬産業/ガイド・長谷部匠)は、男子1500mでアジア新の4分05秒75で優勝した。2位に入った唐澤剣也(群馬社福事業団/ガイド・茂木洋晃)も4分07秒72で従来のアジア記録を上回った。和田は、春以降は人と接触する機会を減らすため伴走者と一緒に走ることができず、緊急事態宣言が解除されるまでは練習が限定的になったという。それでも、成績が維持できるよう工夫してトレーニングを続け、狙っていたアジア新をマーク。逆境を力に変えたベテランは、「東京パラでメダル争いできるレベルまで来た」と言い切り、さらなるスケールアップを印象づけた。

視覚障がい(T12)の男子マラソンで東京パラリンピックの出場を確実にしている堀越信司(NTT西日本)は、男子10000mで32分23秒61のアジア新記録を樹立した。また、車いすレーサー・大矢勇気(ニッセイ・ニュークリエーション)は、男子200m(T52)を31秒11で制し、伊藤智也(バイエル薬品)が持つアジア記録を8年ぶりに更新。女子走幅跳(T64)の世界女王・中西麻耶(阪急交通社)は、4回目の跳躍で5m70の跳躍を見せ、自らのアジア記録を19㎝塗り替えた。競技終了後、「コロナで練習環境が制限されても、公園や河川敷で練習し、その質は変わらなかった」と、力強くコメントした中西。来年の大舞台でも大ジャンプを期待したい。

男子やり投(F46)は復調の山﨑が大会新V!

2018年以来となる60m台を出した山﨑晃裕

注目の男子やり投(F46)は、山﨑晃裕(順天堂大職員)が最終の6投目で60m09のビッグスローを見せ、大会新記録で優勝した。直近の2試合でいずれも59m台をマーク。好調を維持して今大会に臨み、2018年以来の60m台につなげた。東京パラの代表内定をかけて臨んだ昨年の世界選手権でまさかの7位に沈み、その悔しさを原動力に技術を見直してきた。高橋峻也(日本福祉大)に4投目でトップに立たれても焦らず、自分の投擲に集中し、ライバルを突き放した。これで東京パラリンピック出場圏内の世界ランキング5位に浮上。「トップの成績は団子状態。まだ上に行きたい」と話す山﨑は、飽くなき探究心で世界の頂点を目指す。

知的障がい(T20)は、男女とも1500mでハイレベルなレースが展開された。男子は赤井大樹(十川ゴム)が3分56秒24のアジアタイ記録、女子は古屋杏樹(彩tama)が4分36秒56のアジア新記録を樹立した。古屋は昨年の世界選手権時から5キロ以上体重を落とし、今大会に臨んだ。「身体が軽くなって走りやすくなった」と言うように、スタートから飛ばし、最後の一周でさらにペースをあげ、世界ランキング2位相当までタイムを伸ばした。東京パラリンピックの出場に近づき、「嬉しいです」と笑顔を見せた古屋は、「これからまだ大会があると思うので、そこに向けてまたタイムを上げていきたい」と意気込みを語った。

徹底した感染対策で開催を実現

レースの合間にスタート地点を消毒するスタッフ

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、陸上競技では3月のWPA公認大会のワールドチャレンジ、5月のジャパンパラ陸上競技大会などが中止された。コロナ禍が続くなかでの開催となった今大会は、感染予防対策として審判員やボランティア、メディアの数を約3割減らして実施。また選手に事前に消毒液を配布し、関係者にはフェイスシールドの着用を義務付けた。選手や関係者の動線や、スタート地点、砲丸ややりなど道具類の消毒にも細心の注意が払われた。この経験は、10月に延期になった知的障がいの日本選手権の開催にも活かされるという。

日本パラ陸上競技連盟のアスリート委員会副委員長でもある男子走高跳(T64)の鈴木徹(SMBC日興証券)は、大会関係者の尽力に触れ、「2日間大会ができたことに感謝する」とコメント。女子走幅跳で昨年の世界選手権で4位に入り、東京パラリンピック代表に内定している視覚障がい(T11)の高田千明(ほけんの窓口)は、「視覚障がい者はどうしても人と距離が近くなりがちなので注意した。約半年ぶりに他の選手と一緒になり、近況が聞けて嬉しかった」と話し、男子走幅跳(T63)の山本篤(新日本住設)は「この半年間は試合に出たいという気持ちが大きかった。今後、もしまた試合がない状況になったら、精神的にきついと思う」と心情を吐露した。

(MA SPORTS)