パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2016年9月29日

第13回全日本障害者ローンボウルズ選手権大会

日本最高峰の大会で、ベテラン64歳・児島が優勝!

児島久雄が経験を活かして優勝。日本障害者ローンボウルズ連盟会長として競技普及にも力を入れる

偏心球の軌道と芝目を読む力が勝負のカギ

“ボウル”と呼ばれる偏心球を芝生の上で転がし、目標球のジャックにどれだけ近づけられるかを競うローンボウルズ。身体に障がいを持った選手の日本一を決める「第13回全日本障害者ローンボウルズ選手権大会」が25日、兵庫県の明石公園ローンボウルズ場で開催された。

ボウルは直径11.6~13.1㎝の合成樹脂製で、重さは1.6㎏。何といっても特徴的なのが、ボウルが完全な球体ではなく、重心が一方に偏っていることだ。スピードが遅くなるにつれてカーブを描きながら転がるため、その曲がり具合と芝の状態を計算しながら投球する。ただジャックに近づけるだけでなく、相手のボウルをはじいたり、ジャックに当てて移動させるといった高い技術と戦略も必要になる。最後の一投で大逆転もありうる、奥深いスポーツだ。

競技は1対1で行うシングルスから4対4で行うフォアーズというチームプレーまで4種類あり、当日はシングルスを実施。試合は14人がエントリー。1ゲームにつき、一人4球を使用し、10エンド(または60分)繰り返し、各エンドに獲得した得点の合計を競った。

芝目や風向きを計算した投球でジャックを狙う

一投で状況を変えるショットが醍醐味

コートは“Lawn(芝)”のため、立位の選手は専用の靴を着用し、車いすの選手はタイヤとキャスターの接地面が広い専用の車いすを使用する。この日の会場は人工芝で、ボウルが沈む天然芝より転がしやすいが、コートの継ぎ目で軌道が変わることもある。選手は各リンク(レーン)の芝の特徴を読みながら、慎重に投球。ジャックの前にボウルを集めて確実に得点を重ねたり、逆にその対抗策として、強力なカーブをかけて横から回り込んで得点したりと、多彩なショットの応酬は実に見ごたえがあった。

勝敗、引き分け数、得失点差、得点の順で順位を決めた結果、競技歴28年の児島久雄が実力を発揮して優勝、2位に郭善芳、3位に芋野裕が入った。準優勝の郭は、「劣勢でもドライブを投げて、ジャックの周りのボウルに当てて散らす。一投で状況を変えられるのが面白い」と、ローンボウルズの魅力を語る。腎臓移植による内部障がいがあり、この日のように一日5試合もある場合は体調管理と集中力の維持がカギになるといい、「それでも時間内で自分のペースでできるので続けられる」と話し、笑顔を見せた。

52歳で脳出血で倒れ、右半身に麻痺が残る植松博至も、「ボッチャやいろいろなスポーツに挑戦したが、60歳を超えてから始めたこのスポーツが一番続いている」と話す。この日は4敗と不調で、「カッとしてしまうとダメ。いかに自分をコントロールするかがポイントになる」と、メンタルの重要性を説く。

歴史あるパラスポーツ、国際大会でも日本が存在感

1968年テルアビブ大会から80年代までパラリンピック競技だったローンボウルズ。フェスピック(極東・南太平洋身体障害者スポーツ大会)の実施競技でもあり、アジアパラ競技大会に引き継がれてからは、2014年インチョン大会から正式競技に採用されている。児島と植松は日本代表としてこのインチョン大会に出場し、児島はB7クラスで4位入賞、植松はB6クラスで銅メダルを獲得している。

選手と競技アシスタント、ジャッジら全員で大会を盛り上げた

障がいの有無や程度、性別や年齢にかかわらず誰もが取り組める生涯スポーツであると同時に、ステップアップを図る選手にとっては国際大会の日本代表を目指せることも競技活動のモチベーションになっている。8月にシンガポールで行われたアジア6カ国が参加した障がい者の国際大会で日本は総合優勝を果たすなど、世界でも存在感を見せている。また、2017年には韓国でローンボウルズのみのアジア大会が開催予定で、日本も参加予定とのことだ。

ローンボウルズはイギリス発祥のスポーツで、ボウリングとカーリングの原型とされる。オーストラリアやニュージーランド、カナダ、マレーシア、香港、韓国などで人気がある。健常者と障がい者の垣根なく戦う場合や、前途のように障がい者のみの大会もあり、全世界で200万人の愛好者がいるといわれる。ただ、日本国内の競技人口は約3,000人いるが、日本障害者ローンボウルズ連盟の登録者は10数名と少なく、趣味で楽しむ人を含めても40~50名程度だという。

国内の専用施設は兵庫県、東京都、神奈川県、長崎県などにある。障がい者に関しては、1989年フェスピック神戸大会をきっかけに国内で競技活動が始まったことから、今でも関西とくに兵庫県での活動が活発だ。連盟によると、誰もが参加できるファミリー大会の開催や、支援学校やリハビリセンターなどでの出前講座を実施するなど、競技普及と選手育成に努めている。連盟の会長を務める児島は、「少しずつ興味を持つ人が増えてきた。みんなで楽しめるスポーツなので、ぜひ体験してみて」と参加を呼び掛けている。

(MA SPORTS)