パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2016年3月30日

Japan Open 2015 Final パラ馬場馬術競技会

パートナーと心をひとつに。人馬一体の華麗な技を披露

今大会は8人馬がエントリー。グレードⅣで優勝した高橋宗裕と雅乃王子号

東京パラリンピックを見据えて2種目を実施

国内トップレベルの選手が参加する「Japan Open 2015 Final パラ馬場馬術競技会」が3月25日から2日間にわたって、静岡県掛川市のつま恋乗馬倶楽部で開催された。オープン参加の1名を含む8人馬がエントリーし、華麗な騎馬技術を競った。

障がいの程度に応じてⅠa・Ⅰb・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳの5つのグレードに分類され、男女混合で各グレードの頂点を争う。FEI(国際馬術連盟)パラ馬場馬術課目は、規定演技を行う「チャンピオンシップテスト」、選手が自分で選んだ楽曲に合わせて演技を行う「フリースタイルテスト」がある。また、オープンクラスの団体戦「チームテスト」も実施される。今大会は2020年東京パラリンピックを見据えた日本の選手強化の場としての期待も込め、「チャンピオンシップテスト」と「チームテスト」が行われた。あらかじめ決められた地点で、歩様、歩度、運動課目で図形を描き、各項目を10点満点で採点。選手は巧みな手綱さばきと見事な馬との同調性を披露した。

初日を制した常石は、「競馬のG1レースに挑むのと同じ気持ちで励んできた」

注目のグレードⅢは常石、高嶋が制す

最も障がいが重いグレードⅠaは、アテネパラリンピック代表の鎮守美奈(明石乗馬協会)が2種目で優勝。初日のチームテストでは騎乗した馬「明柊」が2本目の試合だったこともあり、「馬が(疲れて)全然動かなかった」。しかし、ベテランならではの丁寧な騎乗で臨機応変に対応し、62.319%をマークした。脳性麻痺のため、騎乗中も自分の体の動きをコントロールすることが難しい。現在は、体の揺れを抑えるため体幹を鍛え、また鞍など道具の改善に挑戦中だという。「最低でも67~68%台、世界で勝つには70%台が必要」と話し、知恵と工夫でさらなる進化を誓う。

1名のみエントリーのグレードⅡの稲葉将(グリーンフィールドET)、またグレードⅣの高橋宗裕(エンゼル乗馬倶楽部)も2種目で優勝した。

とくに注目が集まったのは、常石勝義(明石乗馬協会)、高嶋活士(長谷川ライディングファーム)、木谷美紀(明石乗馬協会)の3選手がエントリーしたグレードⅢだ。まず、チームテストは常石が58.596%で優勝。昨年は2位だっただけに、「本当にうれしい」と笑顔を見せた。そして、2日目のチャンピオンシップテストを制したのは、初日3位と後塵を拝した高嶋。「馬がよく動いてくれた。ただ、僕が細かい点ができなかった。これからは一般の大会にも出場して、人馬ともに経験を積んでいきたい」と語った。

常石と高嶋、実は彼らはともに元日本中央競馬会(JRA)騎手である。常石は競馬学校12期生で福永祐一と同期。レース中の落馬事故から復帰するも、再び落馬事故で高次脳機能障害などと診断されて引退。「もう一度大きな舞台に立ちたい」と2014年にパラ馬術選手としてスタートを切った。そして、高嶋も騎手として障害競走出走中に落馬し、頭部外傷や右鎖骨骨折の負傷を負い、昨年引退を余儀なくされた。その後、常石の活躍をニュースで知り、パラ馬術の選手に転身したばかりだ。どちらも元ジョッキーだけに前傾姿勢の癖があるが、厳しいトレーニングで改善できているという。互いに刺激を受けながら、東京パラリンピック出場を目指す。

パラ馬術の認知度向上と選手間の競争原理に期待

大会を終え、真剣な表情で得点の内容を審判に確認する高嶋(右から2人目)

1996年アトランタパラリンピックから正式競技となっている馬術。唯一、「動物」を扱うスポーツで、選手の年齢が幅広く、女子選手の割合が多いのが特徴だ。選手は個々の障がいに合わせた特殊な馬具を用意しており、FEIに申請して認定されれば使用が可能。鞭の使用も許可されている。また、一般の競技では騎手の姿勢も採点対象になるが、パラ馬術では障がいにより姿勢バランスが取れない選手もいるため、審判は馬の動きのみをジャッジする。

馬の個性を引き出し、また馬が苦手な運動を乗り手がどう補うか。つまり、馬術は馬と乗り手の相互理解が重要で、かつ、いかに馬自身が自分の意思で要求された運動を行っているかのような印象を与えるかが勝利のポイントになる。奥が深いパラ馬術は、一般の馬術と同様にヨーロッパで人気があるスポーツだが、日本では費用面や指導者不足といった背景もあり、競技スポーツとして取り組むアスリートは全国で10人前後にすぎないという。だが、2020年東京パラリンピック開催決定後は増加傾向にあるといい、国内での競争原理に期待がかかる。

今大会の審判長を務めたジャン・ギアリー氏は、「今大会は彼らにとって非常に難しい経路だったが、選手たちの学ぼうという姿勢が出ていた。(2020年に向けて)より経験を積んでもらいたい」と評価した。なお、今年のリオパラリンピックは、日本は1枠の出場権を獲得している。

(MA SPORTS)