パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2015年11月26日

第30回記念全日本視覚障害者柔道大会

60kg級は廣瀬、66kg級は藤本がV

男子60kg級の決勝。廣瀬誠(写真右)が平井孝明に一本勝ちを収めて優勝した

11月22日、全日本視覚障害者柔道の30回記念大会が講道館にて開催された。来年5月に予定されているリオパラリンピック代表選考会の前哨戦となる大会。2012年ロンドンパラリンピック日本代表の廣瀬誠、1996年アトランタからパラリンピック3連覇を果たした藤本聰、期待の若手である永井崇匡、三輪順子らが出場し、各階級の日本一をかけて熱戦を繰り広げた。また、記念大会の取り組みとして海外選手にも呼びかけられ、スウェーデン、インドの選手が参加した。

男子60kg級は、リオを目指す平井孝明と廣瀬が決勝で激突。アテネパラリンピック銀メダルのベテラン廣瀬が、ロンドンパラリンピック日本代表の平井孝明に一本勝ちし、代表選考に弾みをつけた。

ロンドンパラリンピックでは66kg級に出場した廣瀬は、60kg級でリオを目指す。現在、39歳の廣瀬。試合後、年を重ねるごとにキツくなる減量の難しさなどを理由に、今回がパラリンピックへの最後の挑戦になることを表明した。「このまま続けていって国際大会に出られることはあるかもしれないが、パラに出場できなければモチベーションは維持できない。自分にとってパラはそれだけ大きなもの」と語気を強め、「最後の選考会に向けて悔いのないように準備したい」と清々しい表情で続けた。

リオと東京を目指す藤本聰は、強化している寝技で決勝を制した

男子66kg級には9人が出場。前回王者の藤本が73kg級から階級を下げた米田幸弘らの挑戦をはねのけ、連覇を飾った。
「世界のレベルはすごく上がっている」。5度目のパラリンピック出場を目指す藤本は、国内での圧倒的な強さに自信をにじませながらも、試合後は世界を見据えて語った。今年2月のIBSA柔道ワールドカップ(ハンガリー)で2位に入り、「海外勢の技のキレはすごいが、スタミナ面では負けていない。この世代でもまだやれる」と手応えを得たという。

だが、長年負担をかけていた両手首のダメージは、痛み止めを打たなくては試合に臨めないほど。そこで、新たに重点を置くようになったのが寝技の強化だ。「立ち技から寝技への移行が良くなった」。日ごろの練習に、ブラジリアン柔術を取り入れるなど、貪欲な姿勢で大一番に備えている。この日も決勝で米田を抑え込んで一本を決め、自信を深めていた。

期待の若手が活躍!
20歳の永井が73kg級を制す

「廣瀬、藤本を超える選手がなかなか出てこないのは課題。だが、強化の甲斐あって若手の成長が感じられる大会だった」と評したのは、男子の遠藤義安監督だ。

ロンドンパラリンピックで代表だった高橋秀克が出場しなかった73kg級は、20歳の永井と19歳の石橋元気が勝ち上がり、永井が嬉しい初優勝。また、インチョン2014アジアパラ競技大会の90kg級で銀メダルを獲得した北薗新光は、81 kg級で出場し、試合時間残り19秒でベテラン初瀬勇輔から一本を取って優勝し「相手を引きずった後、立ち上がろうとする反動を狙う得意のスタイルで勝利できた」と笑顔を見せた。

女子は、インチョン2014アジアパラ競技大会で銀メダルを獲得した三輪順子(左)に期待がかかる

100kg超級のロンドンパラリンピック金メダリスト正木健人は不戦勝。「リオに向けて外人選手のパワーに負けないよう、さらなる体力アップを図りたい」とコメントした。女子は57㎏級の三輪順子が3連覇。ロンドンパラリンピック日本代表の米田真由美は63kg級で、スウェーデンのニコリーナ・パーハイムに次ぐ2位だった。

また、男子シニアで優勝した1988年ソウルパラリンピック金メダリストの牛窪多喜男は、「パラリンピックを目指すわけではない私たちにとって、毎年この大会を元気に迎えられるのが嬉しい。日本選手権はありがたい存在です」と話し、充実した表情を浮かべた。

世界のレベルが向上する中
変化しつつある日本の環境

東京パラリンピック開催が決まって以降、視覚障害者柔道を取り巻く競技環境も変化した。廣瀬は「“アスリート就職”が増えたと感じる。そういう形態で競技に専念しないと勝てないし、自分が(第一線を)退く理由には、仕事を続けながらでは難しいこともある」と語る一方で、藤本は「常々課題をアドバイスしてくれる人が欲しいと思っているが、(視覚障害者柔道連盟が全日本柔道連盟の傘下となり)今まで遠い存在だった方に、技の専門的な指導をしてもらえるようになった」とメリットを挙げた。

全国から集まった強化選手たちは、大会終了後、そのまま合宿に参加する。「いろいろな選手と対戦できるのは、強化の上でありがたい」とは女子48kg級の半谷静香。リオへの戦いはこの後も続いていく。

(MA SPORTS)