パラスポーツ最高峰を目指す姿を追いかける最前線レポート--Next Stage--企画・取材:MA SPORTS

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2020年7月7日

荒谷幸次さん(JPC専任トレーナー)

「各競技団体と強化拠点の“橋渡し役”として選手のフィジカルをサポート」

パラアスリートのフィジカルコンディションを整えるJPC専任トレーナーの荒谷幸次さん。障がいのある選手一人ひとりの身体と向き合い、競技パフォーマンスの向上を支えている。今回は、JPC専任トレーナーならではの役割や東京パラリンピックに向けた準備、今後の目標などについて聞いた。

障がい者アスリートのコンディショニングについて語った荒谷さん ※写真は取材時のスクリーンショット

JPC専任トレーナーとして、どのような活動をされていますか?

HPSC(ハイパフォーマンススポーツセンター)を活動拠点とし、パラアスリートのコンディショニングを行っています。各競技団体の強化スタッフやトレーナーと連携を取りながら、トレーニングを中心にサポートしているイメージです。また、全体を見渡せる立場でもあるので、HPSCのスタッフやオリンピックの競技団体のトレーナーとコミュニケーションを取り、パラの選手が施設を有効に活用できるよう調整する役割も担っています。2年前のアジアパラ競技大会では日本代表選手団本部として競技団体へ情報提供や選手のケア、トレーニングスペースの提供など本部トレーナー室の運営を行いました。



選手の障がいの種類や程度は一人ひとり異なりますが、指導の際に気を付けていることはありますか?

脊髄疾患の選手は感覚障がいのために褥瘡になりやすいので、厚くクッション性が高いヨガマットを準備したり、排尿障がいによって、尿路感染など内科的な問題も生じやすいことを考慮して、オーバーワークや栄養面にも注意しています。また、視覚障がいで先天性の全盲の選手は人がトレーニングしている姿を見たことがないので、スクワットをするにしても正しい姿勢がイメージできません。そこで、私が実際に見本をしてみて、選手に私の膝を触ってもらって角度を伝えるといった指導をしていきます。選手は目の前の鍛錬に一生懸命になりがちですが、どの試合に一番重きを置いているか、ピークを合わせていくかを常に確認しながら、トレーニング量を調整しています。



障がいや選手を取り巻く環境によって、アプローチの仕方を変えていくのですね。

そうですね。たとえば、知的障がいの選手は精神的に不安定になったり、モチベーションの波があったりします。また、脳性麻痺など重度障がいの選手は自分をコントロールすることが難しい場合がありますが、彼らのことは私より日ごろから関わっている競技団体のスタッフや家族のほうが圧倒的に理解していますので、逆にこちらからあまり介入しないようにしています。日常で彼らと接している家族が疲れてしまうと、選手が心身のコンディションを崩してしまうので、私たちが家族のケアをすることもありますね。



選手の身体を直接触る仕事ですが、選手と信頼関係を築くうえで注意していることはありますか?

選手との信頼関係の構築は一番重要なところだと考えていて、障がいのことや、今困っていることは何かなどストレートに聞くようにしています。コンディショニングをしながら選手の迷いや不安に耳を傾け、メンタル面のケアもする場合もあります。ただその一方で、選手がトレーナーに依存してしまわないように気をつけています。トップの選手はそこも理解していて、うまく周りのスタッフを使い分けていますね。また、健常者は幼いころからスポーツをしていて、たとえば地域予選、県予選、全国大会、そこから強化選手になってオリンピック日本代表、というように段階を踏んで成長していきますが、パラの選手は人口が少ない為、競争する機会が少なく、スポーツを始めたとたんに代表選手になるというケースも珍しくありません。その流れで、トレーニングが定着していなかったり、自分でコンディショニングするという習慣がないまま、最初から「身体をほぐしてください」と要望する傾向があるので、正しく自分をコントロールできるよう、身体に触れながらよく会話するようにしています。



東京パラリンピックに向けて、どんな準備を進めておられますか?

昨夏、トップ選手強化拠点となるNTC(ナショナルトレーニングセンター)イーストが完成しました。「オリ・パラ一体」が前提ですが、パラリンピックを目指す障がい者アスリートが優先的に利用できるので、これまで以上に競技団体や選手が上手く活用できるようにスタッフと連携を進める準備をしています。また、パラリンピック本番ではハイパフォーマンスサポートセンターが選手村外に設置されるので、競技団体からの要望に対応できるよう、HPSCのスタッフとディスカッションをしていく予定です。



日本代表選手団の活躍を支えるハイパフォーマンスサポートセンターは選手にとって心強い味方ですね。

インチョン2014アジアパラ競技大会で小規模のトライアルが始まり、リオと平昌パラリンピックでは実際に多くの選手に活用され、大変好評でした。施設のトレーニング設備も食事も、日本の練習環境と同じなので、とくに普段からHPSCを利用している選手にとっては大きなメリットがあったと思います。



最後に、荒谷さんの目標を教えてください。

パラスポーツ界がより発展し、パラリンピックでメダルを獲るには、やはりオリンピックサポートのノウハウを持っているHPSCのさまざまなサポートが必要だと考えています。冬競技は結果が出始めているのですが、夏競技はこれから、といったところ。ですので、その橋渡しをすることによって、競技団体がコンディショニングや強化に関して、今まで以上に自ら質を高めていけれるようにする、というのが目標です。その成功体験が、4年後のパリパラリンピックの結果にもつながるのではないでしょうか。


(MA SPORTS)

プロフィール

荒谷幸次さん
1975年、愛知県生まれ。整形外科クリニック勤務後、理学療法士養成校の教員を経て、JISSのハイパフォーマンスサポート事業ケアスタッフとして、リオ・平昌パラリンピックの強化支援に2年間従事。現在、JPC専任トレーナーとして、加盟パラ競技団体のコンディショニング関係を中心とした強化事業、パラアスリートのトレーニングサポートや競技団体トレーナーの支援、トレーナー組織化の支援等を行っている。インドネシア2018アジアパラ競技大会日本選手団本部トレーナーを務める。JPC医・科学・情報サポートトレーナー支援領域リーダー、障がい者スポーツトレーナー、日本スポーツ協会アスレティックトレーナー、理学療法士、保健学修士。